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2019年10月16日 (水)

台風19号 千曲川の水害に関する現段階の考え20191016

2019年10月12日から13日の台風19号による広域の水害について、現段階の考えを、まだまだ整理されていないが、下記まとめてみる。
このエントリでは、千曲川に特化してコメントする。

1.千曲川の降雨に関する特殊性

千曲川流域(信濃川上流域)は、基本的に雨が少ない地域である。全方位を山に囲まれた盆地の連続するエリアであり、どちらかの風によってもその外側で雨が降ってしまうからである。信濃川河川事務所の資料に掲載の図がこれである。特に盆地中心は雨が少ない。
 Photo_20191016010801
このことを頭に入れた上で、今回の雨を考えてみる。

今回はこの犀川合流点より上流の千曲川の流域に、これまでに記録がないくらいに、
・全体に広く、
・長く、
・強い雨
が降り続けたことが、今回の洪水の決定的な誘因であり、それは台風の接近時の雨域(台風の位置と地形的要因)がもたらしたものである。
この流域はかなり広いが、通常は全域に長く降るような雨はまずはない。しかし、今回は上陸時までの台風の足が遅く、その台風のサイズが大きかったため、同じ風が吹く時間がとても長く、雨域が動かなかった。鬼怒川のときの気圧配置とはことなるものの、もたらしたものは同じである。

合流点より上流の気象庁の雨を見てみよう。時間雨量の変化を見ると、12日8時頃から21時頃まで、時間50mmには満たないものの、10mm以上40mm以下の雨がずっと降り続いている。特に一部では13時以降20mmを超える雨が振り続けている。

Photo_20191016011601

Amedasumap

気象庁のデータでは、犀川合流点より上流地点の現在のアメダス観測点は11箇所あり、
犀川合流点より上流地点のうち記録最大値を更新したのは、
11地点中、
・48時間雨量は9地点
・24時間雨量は11地点
・12時間雨量は11地点
・6時間雨量は10地点
であった。つまり殆どの地点で記録を更新しており、間違いなく過去最大クラスと言える。

48時間雨量のこの11地点の平均値は、264mmである。

ちなみに参考までに、計画規模の100年に1度の降雨として扱われている雨は、48時間で186mmである。

これは、濃尾平野にいる者からみれば、驚くべく小さい雨量にみえる。
(ちなみに長良川は同じ100年確率で366mmである。)

このような値は、流域面積により増減するので、単純比較はできないが、あまりにもかけ離れている。
また、計画の流域サイズが立ケ花観測点より上流全体(犀川を含む)なので同じ扱いはできないが、DA解析により流域を千曲川に絞った値として検討しても2割ほどしか上昇しないから、今回の雨は100年に1回を超える規模の降雨というのはほぼ確実な統計となる。
(河川整備計画で検討している洪水昭和58年洪水の48時間雨量もこの値には届かない。)

さて、問題は、
・もともと小さい雨によってできる自然な川、
・小さい雨とそれによる流量から検討された河川計画・河川整備による川
に、おきた出来事、という特殊性である。

 

これは瀬戸内海で時々起こる豪雨災害に同類の問題である。
少雨傾向の流域に、台風や気圧配置、線状降水帯の位置などの偶然により、
通常流域の100年以内クラスの雨量が発生しておこる災害と、どう向き合うかである。

ここでは結論は出ないが、まずは書き残しておく。

 

2.千曲川と一般的問題について

千曲川(長野県区間)は、盆地区間の上流から下流まで広く氾濫危険水位を超え、多地点で越水し、2箇所で破堤した。

この川の縦断図(千曲川河川事務所)をみると、長野県の連続する盆地区間と県境狭窄部、新潟の平野部に別れる。
そして、千曲川の上流部の勾配の変化と下流狭窄部が今回の広域の氾濫をもたらしたとも言える。

Photo_20191016002701

報道や専門家の見解で「下流の狭窄部」が盆地出口での氾濫をもたらした、というものがある。狭窄部に近いところではそのとおりである。

しかし、飯山盆地や長野盆地では川の勾配が小さいために、水位は流量により上がってしまい()、狭窄部の改善でも低下背水によるその効果は限定され殆どの区間では今回と大きな違いは生じず上流の結果には大きな変化はないと思われる。

むしろ上記の縦断地形は、上流の急勾配での小さい水位変動でも氾濫を起こした洪水は、

長野市付近のゆるい勾配では流速が小さくなるために断面が膨らみ、水深を大きくさせるため、水位変動の幅が大きくなって氾濫が起きる。

川の防災情報による千曲川の長野県区間の水位変動の時間変化である。
Photo_20191016004401
最上流(樋沢)のピークは12日21時前後、犀川合流後の立ケ花のピークは深夜2-4時、飯山盆地のピークは13日朝6-9時である。
この洪水伝播の遅さは、勾配がゆるくなっていくこと=流速・洪水流下速度が遅くなることであり、下流に行くほどに遅くなり水位上昇が大きくなる、というのが背景にある。(水位変化が大きくなることは、交通流で言う渋滞の深刻さに相当する)

3.洪水伝搬と洪水予報

このような洪水伝搬による水位上昇の時間差は、そもそも、下流域の避難可能性を高められる状況にある。
さらには、洪水予報河川である千曲川では、「洪水予報」が出されていた。そこには、どの地点でどの水位を超えたのか、氾濫が発生したのか、という情報だけでなく、2-3時間後の各地点の水位がどのレベルに到達するのか、を予報として示しているのである。その部分だけの抜粋を示そう。(これは、千曲川河川事務所HPにストックされている情報であるが、本来は、気象庁と河川管理者が共同で発表している公式情報に掲載されているのであることに、重大な注意を向けていただきたい。)

17:30の洪水予報から

1730

18:00の洪水予報から
1800

20:50の洪水予報から
2050  
22:40の洪水予報から
2240
 
23:40の洪水予報から
2340
 
17:30の発表では杭瀬下(千曲市)の19:40時点の氾濫危険水位到達が示されている。
18:00の発表では杭瀬下は19:20の時点で氾濫危険水位を遥かに超えると示し、
22:40、23:40の発表では、立ケ花の水位が1時には危険水位に達し、さらに上昇することを示している。
この情報がでているなかで、雨が止んだからおいそれと避難所から自宅に向かうことは、本来とどまらなければならないことは明らかである。

しかし、その情報はどの程度活用されたのだろうか。
そのあたりの伝達については、メディアはじめ、チェックしているように見えない。
ここに深い疑いをもっていることを記しておきたい。それは次のこととも関係してくる。

4.マスメディア、ローカルメディア
テレビなどのメディアを見ていて気になったのは、メディアの広域化、広域情報化の問題である。

多くの人たちは、避難所でも、自宅でも、テレビを見ている。高齢者ほどそうなっているだろう。
NHKを例にとってみよう。

12日の時点で、三重、静岡の氾濫に始まり、その後関東甲信越の一部(山地周り)に特別警報が出され、実際にそのエリアの洪水が同時多発的に始まった。その後福島宮城岩手へと拡大していく。

それらの情報が一度にメディアに詰め込まれている。実際に放送は時間軸上で一次元であるから、多くのエリアの情報が短い時間に詰め込まれてローテーションで放送される。自分の地域に近いところの情報は、そのうちの一部であり、そしてすでに発生した被害と現在の雨・水位の情報であり、かつ、限られている。

しかし、本当に必要なのは、それぞれの地域に限定して、かつ、身近な情報に手が届いている状況、できれば未来に関する情報、ということになる。

さらにもっと欲を言えば、流域ごとに今とこれから起こることを、示してくれる高密度な情報が、必要な人に届いていることである。

今回の規模で100人以内の死者・不明者で収まるとしたら、それは、過去の災害からは確実に防災情報が活用された成果として、間違いなく前進していることになる。伊勢湾台風60年のいま、それは確認したい。

一方で、現象がおきる最中にわざわざ移動して被災したり、1階で水死する形で亡くなったり、
という死者が0にならない、というのは、

避けられるはずの人的被害を未だ出し続けている「進歩の無さ」を社会は反省しなくてはならない。
しかし、そのためには、そこにある流域でおきつつあることの情報が、必要な人に届いていない状況の根源はなにか、ということである。

私は、何らかの形での、必ず届くローカルメディアの構築・確立が必要だろう、と思う。
それは、何でも良い。どんな形でもよい。

川の状況がわからないから見に行って流されるようなことではならない地域社会に必要なツールだと思う。


5.超過洪水への対応について

今回の千曲川の洪水は、上記のように人的被害は避けられても、最終的に資産被害は避けられない豪雨災害である。
堤防の低いところを他に合わせて高さをきれいに揃えたとすると、むしろ越水はどこでも起こりうる状況になる。どこかを守りすぎればよそにリスクが移転するだけのことである。上流を整備しすぎれば下流に負担が増す。

巨大遊水地のような特殊な場所を作らない限り、リスクの上下流の分断は起こせない。

「こういうとんでもない超過洪水にはどうしたらよいですか?」という質問に皆さんはどう応えるのだろうか。

気になっていることはいくつもある。

保険、まちづくりのありかた、土木施設のありかた、の3つである。

・本来は保険的な機能による緩和手法が普及して良いがそこの実態はどうか。保険学的に成立しないのか。成立しないとしたら、リスクの高い土地・建物の所有者・利用者による時間分散的な、保険的公的制度・積立・プールの制度は作れないか(これは津波のときにも考えた)
・まちづくり・家屋のあり方(まれなリスクにも対応するリスク低減の方法とコスト負担の可否)
・洪水防御施設のあり方・・・越水はしても破堤はしない堤防、などの検討・実現の可否。

超過規模に対するリスクの負担者とその時間は、どこにするのか、というのが最終的な課題の着地点となると思う。


6.おわりに

現時点で思ったこと見たことをまとめてみた。最後の部分は、根幹的な議論となるが今後も考えていきたいテーマである。

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